東京高等裁判所 昭和44年(ネ)745号 判決
一、よつて、被控訴人の錯誤の主張につき判断する。前記認定の事実によれば、被控訴人は金三〇〇万円を自ら借り受けるものと信じ、自己の債務の担保のため、抵当権設定契約、停止条件付代物弁済契約、停止条件付賃借権設定契約をなすべく、表示機関である坂本学に自己の印鑑を托して右各契約締結の意思を書面で表示させる意思であつたにもかかわらず、坂本が前記契約書(甲第一号証)を作成したため、被控訴人の真意に反し、他人の債務を担保するための前記各契約を締結する旨の表示行為をしたことになつたのであるから、右各契約は法律行為の要素に錯誤があつたものといわなければならない。
二、控訴人は、被控訴人に重大な過失があり自らその無効を主張できないと主張するが、前記認定の事実によれば、当日は坂本事務所は立て込んでいた上被控訴人は坂本の指示によつて用件のため、再三外出して同事務所におらず、同人としては自己の真意に基づく書類が作成されたかどうかを確かめることは極めて困難であつたばかりでなく、当審証人久保田常信の証言によれば、本件貸借の目的たる三〇〇万円は控訴人が買受けた土地代金として必要であるとの説明が、当初中順司からなされたことが認められるから、契約の締結に当り、被控訴人が借主となることなく、直接資金を必要としない中央信販株式会社が借主となり、同会社と特別の関係のない被控訴人が担保提供者となるような契約をするについては控訴会社としては疑念を抱き被控訴人の真意をただして然るべきであるのに、その事実がなかつたのであつて、被控訴人に重大な過失があるということはできないものといわなければならないので、右主張は採用できない。
(仁分 瀬戸 土肥原)